舞台は、美しい川が流れる東京郊外の町。
そこに架けられた「ねこすて橋」という不名誉な名前の橋では、近隣に住む猫たちが夜ごと集会を開きます。捨て猫、迷い猫、飼い猫。人間を信じる猫、疑う猫、慕う猫、嫌う猫。さまざまな境遇の猫が集まり、それぞれの幸せを模索しているのです。
ある夜の議題は、このねこすて橋に流されてきた一匹の猫「良男」のこと。
青い目が美しいロシアンブルーの良男は、なんと自分のことを「人間」だと思い込んでいました。飼い主である「沙織」のもとに帰りたい一心で必死に歩く良男でしたが、途中で誰かに毒入りのエサを食べさせられ、倒れてしまいます……。良男は沙織に再会し、ともに暮らすことができるのでしょうか。
良男と沙織のエピソードのほか、三毛猫「キイロ」と絵描きの「ゴッホ」、名前を持たない子猫と少女など、猫と人間が織りなす、あたたかく切ない「絆」をていねいに描いた珠玉の物語。
現代社会において、猫が幸せになるのも不幸になるのも人間次第。「猫が幸せに暮らせる世界なら 人間だって幸せになれる」――それぞれの猫の幸せと、それぞれの人の幸せの答えを見つけに、ねこすて橋の集会を覗いてみませんか。
東京都出身。2006年『三日月夜話』で城戸賞入選。2008年『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年『猫弁 死体の身代金』でTBS・講談社第3回ドラマ原作大賞を受賞しデビュー。猫弁シリーズに『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』『猫弁と透明人間』『猫弁と指輪物語』『猫弁と少女探偵』『猫弁と魔女裁判』、他著に『雪猫』『イーヨくんの結婚生活』(以上、講談社)『あずかりやさん』(ポプラ社)がある。飼い猫の名前は「いなもと」。
「ねこすて橋」に集まるのはどこかしら心に傷を負った猫たち。そこに関わる人間たちもどこか淋しさを抱え、猫を通じて幸せを求めている。
五章にわたって繰り広げられる猫と人間のエピソードは、猫のヒゲのように四方八方広がるが、猫の舌のひと舐めで絡まった哀しみもほぐされ、やがては丸くなって眠る猫のようにきちんとあるべきところに納まる。絶望や怒り、淋しさもやがて静かな希望をたたえた未来へと昇華していく。
大久保 京(猫本専門書店「書肆 吾輩堂」店主)
猫本専門書店 書肆 吾輩堂