中国新聞紙上にて
連載中のコラム
「言ノ葉ノ箱」を、
二〇〇九年から
二〇一四年までの
六年間分まとめた、
短歌エッセイ。
歌人・東直子が贈る、
日々に寄りそい、
心を照らす
七十二月の言ノ葉集。

七つ空、二つ水
東 直子

2015年5月30日発売
Amazonで購入
本体1,600円(税別) ISBN978-4-908059-10-0
ことばの風。ことばの波。ことばの光。ぼくたちは、三十一文字でできた、宇宙の住んでいる。 いしいしんじ(作家)

本文より抜粋

かぼちゃ、みかん、栗、さつまいも、りんご……。食卓にも、中身の黄色い、旬のものが並んでいる。みなほんのりと甘いものばかり。目にも、身体にもやさしい。寒くなるまでの準備期間として、黄色いものは、静かなエネルギーをくれるような気がしている。【もしわたし 死にそうなとき 持ってきて この世でいちばん 黄色いものを 東 直子】
檻の中の動物たちの姿を見つめ、思索をめぐらす歌には、見えない檻に囲まれているかのような閉塞感や孤独感がただよう。動物を見つめているうちに、自分の心の奥深くをのぞいてしまうのだろうか。【だまってる ばかりでもいい 春先の 猛禽類の 檻の前では 東 直子】
【立ちおほふ 雲のひまより 青空の わづかに見えて 梅雨明けんとす 正岡子規】空を見つめて季節を詠んだ素朴な内容の歌だが、「梅雨明け」に、自分の病が治癒することへの希望を込めたような気がしてならない。【モノクロの 子規の横顔 しみじみと 死者の頭骨の うつくしさかな 東 直子】
【清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢ふ人 みなうつくしき 与謝野晶子】花盛りの夜の祇園を歩いた。雨も降って肌寒い夜だったが、芽吹きはじめた柳の木と桜花を照らす雅な光に寄せられるように、人々が傘を差してそぞろ歩きを楽しんでいた。百年以上前に晶子が感じたように、この夜に擦れ違う人もみな、とても美しかった。
東 直子

著者略歴

1963年、広島県生まれ。歌人、作家。
1996年、第七回歌壇賞受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』『東直子集』『十階』。2006年『長崎くんの指(文庫改題『水銀灯が消えるまで』)』で小説家デビュー。小説、エッセイ集に『とりつくしま』『さようなら窓』『ゆずゆずり』『千年ごはん』『鼓動のうた』『キオスクのキリオ』『いつか来た町』『いとの森の家』『晴れ女の耳』『短歌の不思議』、共著に『回転ドアは、順番に』『短歌があるじゃないか。』など。