いたずらをする、暴言を吐く、などをする子どもの目標は、そうすることによって大人を動かすことにあります。欲しいおもちゃを買ってもらう、幼稚園を休める、自分に構ってくれる……などなど。これらが実現すると、その子は不適切な行動をして人を操作するようになるでしょう。ここで大人がやってはいけないのは、注目を与えることです。試しに泣いて暴れている子どもを置いて、その場を離れてみてください。最初は勇気がいるかもしれませんが、自分を見てくれる人がいなくなった子どもは、ほどなくして泣きやみます。親という注目してくれる観客(相手役)がいないと、子どもはパフォーマンスをする意味がなくなってしまうからです。
うっかり水をこぼすことは不適切な行動ではありません。私たち大人でもうっかりやってしまうことです。子どもが自分で水を注ごうとしてこぼしたのなら、その行動を「チャレンジ」とみなすこともできます。後始末をしなければならないし、親にとってそれは好ましい行動ではないかもしれません。しかし、それは叱ることではありません。むしろ対処の仕方を子どもに教えるチャンスであり、子どもにとっては、今後どうしたらいいかを学ぶチャンスと捉えられることができます。叱られて不快な思いだけを残すのか、穏やかに対処法を教えてもらうことで自立のスキルと自信を得られるのか。その小さな積み重ねは子どもの人格形成にやがて大きな差を生みます。
親がいるところで繰り広げられるきょうだいげんかの多くには、親の注目を得たいという目標があります。親が注目を与え、叱ったり、止めようとすればするほど互いにアピールし、けんかは激しさを増すということはよくあることです。上の子は、お母さんから「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」などと言われて理不尽な思いを味わい、下の子にとってはしめたもの、ということもよくあります。親がとるべき対応は、観客にも裁判官にもならないことです。「ねえ、あなたたち、けんかなら外でしてね。ここにいたいなら、仲よくしてね。どっちかにしてちょうだい」とお願いし、それでもけんかをやめないようなら親はその場を離れます。すると、子どもたちも途端につまらなくなって、決着がつかないままなんとなく収束します。親の注目が得られないとわかると、そのうちけんか自体もしなくなるでしょう。
遊んでばかりいるように見える子どもの遊びを観察してみてください。友だちとかかわり合い、大人からはバカバカしく見えることを真剣に、あるいは実に楽しそうにしているかもしれません。くだらなく思えることでも、それは子どもたちの柔らかで豊かな発想のひとつとみなすこともできます。宿題に関しても観察してみると、一刻も早く友だちと遊びたくて後回しになるのか、難しくてできないから直視したくなくて後回しにしているのか、もし声をかけなければ本当に宿題をしないのかどうか、知ることができるのです。それらを知ったとき、宿題より先に友だちと遊びたいなんて、気の合う仲間がいてよかったね、と共感が生まれてくるはずです。そして、それを知って初めてどう対処するのかが見えてくるのです。まずは尊敬・共感・信頼の心で子どもの行動を観察してみましょう。
日本の企業は長時間労働、朝早く出勤し夜遅くに帰って来るというのがもっとも多い就労スタイルです。そのために、共働きの家庭では子どもといる時間が短くなります。ここで考えてほしいことがあります。昔の日本は、そんなに親子が一緒に長い時間を過ごしていたのでしょうか? 今よりも子どもが多く、親子で多くの時間を費やせなかったと考えられます。共働きであっても現代の方が、一緒に過ごす時間は長いかもしれません。しかし、「子どもと過ごす時間が短い」ということに実はさほど問題はないのです。大切なのは〈時間の長さ〉ではなくて〈密度〉なのです。共働き家庭ならではの育児があります。それは子どもに役割を与えることです。家族の立派な構成員と認めて、家事をお願いするのです。一緒に過ごす時間が少ないうえに、家事をさせるなんて……と引け目に感じることはありません。役割を与えられたことの誇り、家族の構成員である自覚、役に立っているという喜びを子どもは感じることができます。共働き、専業主婦、どちらを選んだとしても、デメリットに目を向けるのではなくメリットを建設的に生かすことを決意することが何を選ぶかよりも大切なことなのです。
1947年、栃木県生まれ。1970年、早稲田大学卒業。外資系企業の管理職などを経て、1985年4 月、有限会社ヒューマン・ギルドを設立。代表取締役に就任。アドラー心理学に基づくカウンセリング、カウンセラー養成。各種研修を行っている。
主な著書に『マンガでやさしくわかるアドラー心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人間関係が楽になるアドラーの教え』(大和書房)、『アドラー心理学によるカウンセリング・マインドの育て方』(コスモス・ライブラリー)、『人生が大きく変わるアドラー心理学入門』(かんき出版)、『アドラー心理学が教える新しい自分の創めかた』(学研パブリッシング)など、ベストセラー・ロングセラーが多数ある。