話の続きを考えよう!

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選考結果の発表

総評(北野勇作先生より)

たくさんの作品を楽しませてもらいました。自分の書いた小説の続きをこんなにたくさん考えてもらえる、というのは、まあ小説家冥利につきるというものです。この中から五つだけ選ぶ、というのは本当に苦しくて、けっこう悩みました。他にも面白い作品は色々あったし、「続き」というより、独立した文章としておもしろいものもありました。
だからこれはあくまでも、「続き」として私の好みです。
皆様、ありがとうございました。

  • ジュポたん

    <本文 62>
    自転車で先に出た妻と娘を追いかける。道順は聞いていたが例によって方角がわからなくなり、道順を聞いているときにわかったふりをしなければよかった、と思うが今さらどうしようもなく、今も迷ってもう三年目。

    <その先>
    こうなったら妻を頼るしかない。
    今どこにいるのかメールで聞いてみる。
    数分でメールが届く。
    妻と娘が数メートル後ろで笑っている写真が添付されている。

    <講評>
    カメラを引いたら本人が見てたのとはまったく違う絵が見える、みたいな落ちが見事です。
    それを説明するのではなく、一枚の写真だけで表現したところも。

  • えすえー

    <本文 15>
    日向を歩くにはあまりに日差しが強い。おまけに帽子を忘れてきた。道路に落ちている影を探し、影を選び、影から影へと渡るように歩く。ゲームでもしているかのように夢中になり、顔を上げたら知らないところにいる。

    <その先>
    大丈夫、帰り方は分かってる。
    また影から影へと渡ればいい。
    帰ったら冷たいジュース飲もう。

    <講評>
    あれこれひねってあるものが多い中、このシンプルさが新鮮でした。ただ逆に渡るだけ、という呑気さが、いい味を出してます。
    あと、結末に暑い夏の日のリアルさがよく出てます。

  • 11011式

    <本文 126>
    近所の廃工場の前に金属の枠があって、普段は濁った水が溜まっている。覗くと金魚らしき赤い影が動く。晴れた日が続くと、からからに乾いて底がむき出し。なのに、雨が降って水が溜まると、また赤い影が動いている。

    <その先>
    赤い影が金魚にしか見えないので、ポイを持ってくることにした。
    こう見えて金魚すくいは大得意なのだ。
    ポイを巧みに操り、赤い影をすくう。
    ポイは破れこそしないが、赤い影はポイの表面を自在に動き回るだけで、
    水槽に移し替えることができない。

    <講評>
    もとの話は一種の怪談で、ちょっと理屈にあわない気味の悪さ、みたいなところを狙ったのですが、赤い影という形でしか存在していないものをすくおうとするとこうなるだろう、という理屈っぽいところがおもしろい。ポイの表面を動く影、というイメージも鮮やかです。

  • こっぱもち

    <本文 30>
    麻酔を使うわけにはいかないんです。麻痺するとできないからね。だから痛いのは我慢。はい、奥歯に大きな穴を開けましたよ。ここに両手をかけて、頭から入る。そうそう、全部入ったら身体がきれいに裏返りますよお。

    <その先>
    はい。裏返ったら全部新品同様。
    あとは穴を埋めて出来上がり。
    大事に使ってくださいね。
    またできるのは、十年後ですよ。
    お大事に。

    <講評>
    そもそもありえない話なんですが、でもそれが当たり前のように行われている日常感覚がいいです。
    現実の歯医者さんでのやりとりを思い起こさせる台詞もうまい。

  • 耕士

    <本文 23>
    メールが届く。妻と娘が山のてっぺんで笑っている写真が添付されている。メールが届く。妻と娘が水の底で笑っている写真が添付されている。メールが届く。妻と娘が昨夜見た夢の中で笑っている写真が添付されている。

    <その先>
    お父ちゃんまだ起きてけえへんのかいな。
    タカシ、起こしてきて。
    え、起きない。しゃあないなぁ。
    またメール送って起こさなあかんのか。
    どないして夢の中でメール読んでんねんやろ。
    まぁ、ええけど。

    <講評>
    こっちから見ると向こうが夢で、向こうから見るとこっちが夢、というひとつの定番のアイデアですが、それを説明ではなくてぼやきの台詞だけでちゃんとわからせてるところがいいです。関西弁にすることで、前の部分とは語り手が違う、というのをわからせてるところも。

たくさんのご応募
ありがとうございました。

その正体は何だ!?じわじわ気になるほぼ100字の小説

北野 勇作

2018年12月20日発売
本体 1,000円(税別)
ISBN978-4-909689-23-8